超高齢社会を支える歯科衛生士をもっと現場に!
2017.11.2
厚生労働省受託事業歯科衛生士に対する復職支援・離職防止等推進事業スタート
超高齢社会が進む中、良質な歯科保健医療の提供や医療安全の確保、医療・介護と連携した歯科保健医療サービスが求められています。また地域包括ケアシステムにおける歯科衛生士の役割も期待され、歯科衛生士の必要性が高まっています。しかしながら、現状では、歯科診療所等の深刻な歯科衛生士不足に加え、地域包括ケアシステムの推進に伴って今後必要とされる歯科衛生士の人材確保が極めて困難となることが予想されています。
歯科衛生士には、結婚や出産等のライフイベントを機に離職する者も多く、また新人歯科衛生士においては、臨床現場で求められる実践技術や職場環境に適応できずに早期離職する者もおり、課題となっています。
厚生労働省によると、全国に約25 万人いる歯科衛生士有資格者のうち、就業者は約12 万人に止まり、潜在歯科衛生士に対する復職支援や、就業中の歯科衛生士の離職防止を推進する必要があります。今後展開予定の歯科衛生士の復職支援・離職防止等に関する取組について、11 月8 日「いい歯の日」の前に、ぜひメディアの皆様にご理解を深めていただきたく、記者説明会を実施いたしました。
歯学部附属病院 病院長 若林則幸 教授(中央左)
歯科衛生士総合研修センター センター長 水口俊介 教授(中央)
歯科衛生士総合研修センター 副センター長 品田佳世子 教授(中央右)
歯科衛生士総合研修センター 歯科衛生士 渡邊洋子(右)
歯学部附属病院 歯科医療情報センター センター長 木下淳博 教授(左)
それぞれの登壇者の講演要旨を下記にご紹介します。
講演1 歯学部附属病院 病院長 若林則幸
超高齢社会の進展による人口構造の変化、う蝕の減少等による疾病構造の変化、ITの普及による患者意識の変化、歯科治療技術の向上などにより、歯科医療提供体制は、ライフステージに応じたきめ細やかな歯科保健サービスが求められ、歯科医療機関のみならず、介護保険施設、地域包括支援センターなどサービスを提供する場の多様化への対応の必要性も予想されます。
超高齢社会において、歯科医療は全身の健康維持増進を図り、質の高い生活を営む上での基礎となるため、歯科疾患の予防、口腔機能向上、医科歯科連携、在宅歯科医療などにおいて、歯科衛生士の人材育成と人材確保のニーズがますます大きくなります。
東京医科歯科大学歯学部附属病院では、このような状況に鑑み、歯科衛生士の人材育成に関する長い実績を生かし、厚生労働省の受託事業として、「歯科衛生士に対する復職支援・離職防止等推進事業」をスタートさせました。
講演2 歯学部附属病院 副病院長/歯科衛生士総合研修センター センター長 水口俊介
超高齢社会が進む中、要介護(要支援)の認定者数は、平成27年4月現在608万人となり、この15年間で約2.79倍に増加しています。特に軽度の認定者数の増加が顕著で、軽度の段階で重症化を防ぎ、生活機能・QOLを維持するためには、「食べる」「話す」などに欠かせない口腔機能の維持・改善による、接触嚥下障害、サルコペニア、ロコモティブシンドローム、フレイル、うつ病、認知症などの予防を行うことが必要不可欠です。
このような超高齢社会に伴う歯科医療ニーズの増大によって、歯科衛生士に求められる役割も、歯科診療の予防、口腔機能管理・維持向上、多職種との連携など、拡大することが予想されます。
一方で、歯科衛生士国家試験に合格し、歯科衛生士の免許登録をしている人の数が平成28年度には、26万2325人ですが、実際に歯科診療現場で働いている就業歯科衛生士数は、12万3831人に留まり、有資格者の約半数が就業していない状況です。
総務省が発表した労働力調査にある「女性の労働力」と比較した場合、歯科衛生士の年齢別の就業状況の特徴は、20代前半で就業した後、30~34歳までの間で急激に就業率が低下してしまうという他の職種には見られない特性が判明しています。
この理由については、歯科衛生士が離職するタイミングとして、結婚・出産などのライフイベントに伴うケースが多く、25~34歳頃に結婚・出産をする歯科衛生士が多いことが影響していると思われます。
歯科衛生士の勤務実態調査報告書によると、30~34 歳の未就業歯科衛生士の約80%は復職を希望しているもの、「自分のスキルが不安」、「環境が整わない」、「復職に踏み切れない」などの理由で、実現していないのが実情です。
歯科衛生士の人材不足の現状については、厚生労働省が発表した内容によると、自治体の約70%が、歯科衛生士が不足していると回答しています。また当センターが行った歯科医師約200 人を対象としたアンケート結果によると、約90%の歯科医師が歯科衛生士に研修を受けさせたいと回答しております。
東京医科歯科大学歯学部附属病院では、このような状況を改善するために、歯科衛生士有資格者を歯科診療の現場に戻す「復職支援」と、国家資格取得後の歯科衛生士が就業後にも継続的に臨床スキルを向上させることで、新人歯科衛生士の「離職防止」を実現するために、歯科衛生士の研修施設として、「歯科衛生士総合研修センター」を発足いたしました。センターでは、基礎技術研修、シミュレーション研修、臨床研修など、体系的な研修が可能となり、個人の状況に合わせて、どの段階からでも研修可能な自由選択プログラム制で、2018 年1 月~3 月までを研修期間と定めております。現在すでに受講希望の歯科衛生士を募集中で、受講料は無料、受講方法については、事前に個別に面接・オリエンテーションを兼ねたカウンセリングを行います。詳細についてはホームページをご覧いただければ幸いです。
講演3 歯科衛生士総合研修センター 副センター長 品田佳世子/歯科衛生士 渡邊洋子
歯科衛生士は、歯科衛生士法第一条に規定されているとおり、国民の歯・口腔の健康づくりをサポートする専門職です。平成28 年の厚生労働省の調査によると、就業先は歯科医院が90.6%、そのほかに保健所や市町村などの行政、教育機関や介護施設等で就労しています。そのほかに近年、介護保険施設における活動が増加しています。
歯科衛生士は歯科医院において、かかりつけ歯科医院の一員として、出産前から生涯にわたって口腔機能の維持増進に努めています。
病院などでは、手術前に周術期の口腔ケアを行うことで、患者様の在院日数(入院期間)がいずれの診療科においても、ほぼ10%以上減少していることが認められます。
さらに回復期においては、「口から食べる幸せ」を守るために、多職種から口腔に関する助言を求め られます。がん対策基本計画の中でも、がん治療における医科歯科連携による口腔ケアが推進されてい ます。
また地域における歯科保健業務については、これまでの妊産婦・乳幼児を中心とした母子 歯科保健の向上だけでなく、成人・高齢者に対する8020運動の推進、要介護者の歯科対策等についても全国で実施されています。
超高齢社会が進む中、高齢者の口腔機能を守ることは重要な課題です。介護保険施設では、入所者への専門的口腔ケアや、食前体操・唾液腺マッサージなどを提供しています。さらに介護職、作業療法士などの医療職、福祉職、ボランティア関係者など利用者を支える多くの職種と連携することも必要です。
このように歯科衛生士は、ライフステージの特徴にあわせて、食べる、話す、笑う、呼吸をするという生活の基盤を支え、毎日を生き生きと暮らし、人生の最期まで全うできるように、サポートしています。歯科衛生士は、予防、治療、ケアの場で、言い換えれば、保健・医療・福祉どの分野でも活躍ができる歯科の専門職です。
お知らせ
歯科衛生士総合研修センター キックオフセミナー開催
下記の内容で、歯科衛生士有資格者を対象に、キックオフセミナーを開催します。(入場無料、事前申込推奨)
◆日時 平成30 年1 月14 日(日)13:00~17:00
◆会場 東京医科歯科大学 歯学部附属病院 特別講堂 (歯科棟南4 階)東京都文京区湯島1-5-45
◆セミナー講演内容(予定)
・歯科衛生士としての自覚と責任ある行動
・患者の理解と患者・家族と良好な人間関係の確立
・就労者の義務と権利
・地域における歯科衛生士の役割の理解と活動 など
【キックオフセミナーに関する連絡先】
東京医科歯科大学歯学部附属病院 歯科衛生士総合研修センター
TEL.03-5803-4349(受付時間平日9~17 時)
FAX.03-5803-0405
Mail:tmdu-dhtc@ml.tmd.ac.jp